平成16年11月●●日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成14年(ワ)第●●●●●●号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日 平成16年8月3日

     判      決

 

静岡県田方郡大仁町3丁目162番地
  原        告  ワールドメイト
  同代表者代表役員  半 田 晴 久
同所
  原        告 深見東州こと
     半 田 晴 久
  上記2名訴訟代理人弁護士  西垣内 堅 佑
(住所省略)
  被        告   R氏(仮名)
  同訴訟代理人弁護士  紀 藤 正 樹
   弘 中 絵 里


 

     主     文

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。


     事 実 及 び 理 由

第1 当事者の求めた裁判

 

 

  1. 被告は,原告らそれぞれに対し,3500万円及びこれに対する平成14年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

     
  2. 被告は,別紙1記載の謝罪広告を,朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,日本経済新聞,産経新聞の各朝刊全国版社会面広告欄に、別紙2記載の掲載条件で掲載せよ。

     
  3. 訴訟費用は被告の負担とする。

     
  4. 第1項につき仮執行宣言

二、被告

  1. 本案前

    (一) 原告ワールドメイトの被告に対する訴えを却下する。

    (二) 訴訟費用は原告ワールドメイトの負担とする。


     
  2. 本案

    主文同旨

第2 事案の概要

 被告は,宗教団体である原告ワールドメイトの会員であった者であるが,原告ワールドメイトを退会した後の平成12年頃,複数のインターネットサイトの掲示板に,原告ワールドメイト及びその代表者である原告半田晴久(以下「原告半田」という。)に関する記載(以下「書き込み」という。)をしていた。
 本件は,原告らが,被告による書き込みのうち7件の書き込み(以下「本件各書き込み」という。)は,原告らの名誉を毀損するものであり,これにより原告らは精神的損害を被ったとして,被告に対し不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料各3500万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成14年4月13日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに被害回復のための謝罪広告の掲載をそれぞれ請求した事案である。


一、争いのない事実等(末尾に証拠等の引用のない事実は,当事者間に争いがない。)

  1. 当事者等

    (一)原告ワールドメイトは,静岡県田方郡大仁町立花3丁目162番地に総本部を置き,12か所のエリア本部の外,144か所の全国支部を置く宗教団体である。その前身は「コスモメイト」という名の宗教団体であった(以下,前身たるコスモメイトについて「原告ワールドメイト」ということがある。)。

    (二)原告半田は,原告ワールドメイトの教祖(リーダー)であり,深見東州という通称名を使用している者である。原告半田は,原告ワールドメイトの規則上,リーダーは最高指導者と定められている

    (三)被告は●●(職種伏せる)であり,平成2年から平成8年までの間,原告ワールドメイトの会員だった者である。

     
  2. 別件訴訟と和解

     原告ワールドメイト(当時コスモメイト)の会員であった●●●●(個人名伏せる。以下A女)及び●●●●(個人名伏せる)(以下「A女ら」という。)は,平成5年3月17日,横浜地方裁判所に,原告半田から胸を触るなどのセクシャルハラスメント(以下「セクハラ」という。)を受けたとして,同人を被告とし,それぞれ慰謝料として500万円,弁護士費用として85万円の損害賠償を求める訴訟(横浜地方裁判所平成5年(ワ)第●●●号損害賠償請求事件。以下「別件訴訟」という。)を提起した。当該訴訟において,平成5年11月17日,A女らと原告半田との間で,原告半田がA女らに対し解決金としてそれぞれ550万円を支払う旨の訴訟上の和解が成立した。同和解には,双方当事者は事件について第三者に口外しない旨の秘匿条項が定められていた。(乙14の1ないし6)

     
  3. 被告による書き込み

     被告は,原告ワールドメイトを退会した後の平成12年頃,複数のインターネットサイトの掲示板に,原告ワールドメイト及び原告半田に関する書き込みをしていた。

  4. 本件各書き込み

    (一)被告は,西村ひろゆきが管理人として運営するインターネットサイト「2ちゃんねる」の「心と宗教」と題する掲示板に以下のとおりの書き込みをした。

    (1)平成12年10月11日午後2時4分
    「だから,セクハラ裁判でも,保証金に上乗せまでして,被害者の口封じをして『和解』で逃げたじゃないですか。」(以下「本件書き込み1」という。なお,同日午後2時15分の書き込みによって,「保証金」は「補償金」と訂正されている。)

    (2)平成12年11月10時午前0時22分
    「しかし,彼の云い方を深見さんを当て嵌めれば,深見さんもWMを金儲けに使った単なる好色で強欲で傲慢なおじさんになってしまうのでは?」(以下「本件書き込み2」という。)

    (二)被告は,平成14年3月14日午後11時8分,被告自身が管理人として運営するインターネットサイト「スサナル」の掲示板に,「しかし,30年にも渡りセクハラ,業者癒着,僭主じみた行動等々を壟断していた人物を駆逐するのは,あちらの世界からしても至難の技です。」との書き込み(以下「本件書き込み3」という。)をした。

    (三)被告は,インターネットサイト「こおろぎの巣」の掲示板「意見箱」(以下「こおろぎの巣」という。)に,「WMみたいな人様の御金を無駄遣いする水ぶくれ体質で,ハイコスト・ロークオリティーなのに,会員の会費は下げられるんですかね?」との書き込み「以下「本件書き込み4」という。)をした。

    (四)被告は,インターネットサイト「スズムシ山荘」の掲示板「山荘メンバー制談話室」(以下「スズムシ山荘」という。)に,以下のとおりの書き込みをした。

    (1)平成13年5月4日午後4時48分
    「支えられる程の収入源は何処にあるのか?得体の知れぬ『闇』の部分を垣間見せているのかも知れません。」(以下「本件書き込み5」という。)

    (2)平成13年6月10日午後1時47分
    「以前から,コスモメイトの資金面には?がありましたが,存外,民族主義者(右翼),及びそれに同調する政治屋等と隠密裏に繋がっている可能性も念頭に入れておいても良いと思います。」(以下「本件書き込み6」という。)

    (3)平成13年6月3日午後1時48分
    「私には,WMの幹部の方々は,深見さんにとって都合の良い,使い捨てのdisposableみたいな印象が拭えません。」(以下「本件書き込み7」という。)
     

二、争点

本件の主たる争点は,

  1. 原告ワールドメイトは,当事者能力を有するか(争点1),

     
  2. 本件各書き込みは,原告らの名誉を毀損するか(争点2),

     
  3. 本件において,違法性ないし故意・過失の阻却事由がるか(争点3),

     
  4. 原告らの損害額及び謝罪広告の要否(争点4),

      である。

 


三、当事者の主張

  1. 争点1について

    (一) 被告の主張

     原告ワールドメイトは,その内部において多数決原理が貫徹されておらず,権利能力なき社団としての要件を欠くから,当事者能力を有しない。


    (二) 原告らの主張

     宗教法人法18条は,宗教団体の特殊事情を考慮して,代表役員と責任役員の定めをしているだけで,これらの役員が総会の定めにより選出されることまでを必要としておらず,宗教法人における代表者決定の方式は,各法人の自主性にまかせている。原告ワールドメイトも,規則において,代表役員と責任役員を定めており,責任役員会においては多数決の原理が貫徹されている。また,原告ワールドメイトは,規則で総代会を定め,全国支部代表会議を開き,民主的運営が行われるようにしている。したがって,原告ワールドメイトは,当事者能力を有する社団である。



  2. 争点2について

    (一) 原告らの主張

     本件書き込み1ないし3及び本件書き込み7は原告半田の,本件書き込み4ないし6は原告ワールドメイトの社会的評価をそれぞれ低下させる内容のものであり,原告らの名誉を毀損する。
     また,本件書き込み3は,原告ワールドメイトを批判するための掲示板に記載されたものであり,その直前に「深見さん御本人」との記載があることからしても,原告半田に関するものであることは明らかである。また,他人の社会上の地位を毀損するような事実を第三者に表白したときは,広く社会に流布しなくても名誉毀損の不法行為を構成する。


    (二) 被告の主張

    (1)否認ないし争う。

    (2)本件書き込み2は,これより先にされた「バカ反メイト」と称する者の書き込みを受けて,これを引用しながら,同人の書き込みをただすものであり,原告半田の名誉を毀損するものではない。

    (3)本件書き込み3は,被告が勤務する●●(伏せる)●●●●(伏せる)についての書き込みであり,原告半田とは一切無関係である。

    (4)本件書き込み5ないし7は,管理者によりパスワードの発行を受けなければアクセスできない掲示板にしたものであり,パスワードの発行を受けた者は10名程度にすぎず,これらの者は守秘義務を負うから,書き込みの内容が流布する可能性は低く,公然性を欠き,原告らの名誉を毀損しない。

    (5)また,本件書き込み5は,仮定に基づく抽象的な印象を述べているにすぎず,原告ワールドメイトの社会的評価を低下させるものではない。



  3. 争点3について

    (一) 被告の主張

    (1)本件各書き込みの公共性等

    @原告ワールドメイトは日本各地に支部を置く,会員数5万人以上の宗教団体であり,原告半田はその教祖であるところ,かかる宗教団体やその教祖の活動が社会的に許容されるものであるか否かは,社会一般の重大な関心事である。そして,本件各書き込み(本件書き込み3を除く。)は,いずれも原告ワールドメイトの資金の使途,財源,人事及び原告半田が会員に対しセクハラをしたとされる別件訴訟における原告半田の対応に関するものであり,やはり社会一般の重大な関心事に該当する。被告が本件各書き込み(本件書き込み3を除く。)をしたのは,原告ワールドメイトの会員であったときに自らが体験した事実に基づき抱いた疑問や不信を他者と話し合う目的であった。したがって,本件書き込み(本件書き込み3を除く。)は,いずれも公共の利害に関する事実について,専ら公益を図る目的でしたものである。

    A本件書き込み1ないし4は,公開された掲示板にしたものであるから,原告らにも反論の機会があった。よって,マスメディアによる場合などに比べて,許容される表現の範囲は広い。

    (2)本件書き込み1について

     本件書き込み1は,原告半田が別件訴訟においてA女らが請求した慰謝料よりも多い和解金を支払うことにして和解した事実を摘示し,また,この事実と和解に秘匿条項を設けた事実を前提として,被害者の口封じをして和解で逃げたと論評したものである。これらの事実摘示部分は真実であり,論評は真実に基づく適正な論評であるから,違法性が阻却される。

    (3)本件書き込み2について

     本件書き込み2は,原告半田ないし原告ワールドメイトと不可分一体をなす関連団体である株式会社コスモワールド(現株式会社日本視聴覚社)が64億円の所得隠しを指摘され約33億円の追徴課税を受けた事実を前提に「強欲」と,原告半田が女性会員に無理やりセクハラをした事実を前提に「好色」と,原告半田が原告ワールドメイトの代表者会議に欠席した支部には神罰を加えると発言するなど,他人は自己の意のままに動かなくてはならないという言動をとったことを前提に「傲慢」と各論評し,また,当時48歳であった原告半田を「おじさん」と表現したものである。そして,所得隠しの事実,セクハラの事実,原告半田が前記のような態度をとっていた事実はいずれも真実であり,仮に真実でないとしても,被告がこれらを真実と信じるにつき相当な理由があり,論評はこれらの事実に基づき公益目的でされた適正なものであるから,違法性ないし被告の故意・過失が阻却される。

    (4)本件書き込み4について

     本件書き込み4は,公共性のある事項について公益目的でした真実に基づく適正な論評であり,違法性が阻却される。すなわち,原告ワールドメイトの神事,秘法,救霊などと呼ばれる行事等に参加するには高額な金員を要し,被告自身も原告ワールドメイトに900万円くらいの金員を費やしているが,それらの金員は,原告半田の能,オペラ,個展等の開催,海外や日本紅卍会という団体(以下「紅卍会」という。)への寄附等に使われ,会員に還元されていない。被告が原告ワールドメイトに入会したのは母親を病気から救うためであり,原告ワールドメイトの言うとおりに救霊や資格取得をしたのに,何ら客観的効果はなかった。被告は,これらの真実を前提に,「人様の御金を無駄遣いする水ぶくれ体質」であり,「ハイコスト・ロークオリティ」と論評したのであり,これは意見ないし論評の域を逸脱するものではない。

    (5)本件書き込み5について

     本件書き込み5は,その直前に被告自身が立てた「もし当時から収支ギリギリであるのならば」という仮定と,いまだに原告ワールドメイトが資金面で赤字になっていないという事実とに基づいて生じた疑問を表明し,前記所得隠しの事実や多額の寄附の事実を前提に,会員らに公表されていない収入源があるのかもしれないとの推測を述べたものである。また,原告ワールドメイトやその関連団体に,会員にとって不明瞭な収入があることは事実である。したがって,本件書き込み5は,公共性のある事項について,公益目的で,真実に基づき適正な意見ないし論評を表明したものであり,違法性が阻却される。

    (6)本件書き込み6について

     本件書き込み6は,被告が会員であった当時,原告ワールドメイトは会計報告をしておらず,収支が不明であった事実や,前記所得隠しの事実,寄附の事実,海外資産を購入した事実等を前提に,原告ワールドメイトの前身であるコスモメイトの資金面に疑問があるとの意見を表明し,以前原告ワールドメイト内部で紛争があったときに,共産主義に反対し,民族主義(右翼)的な書籍を出版する全貌社という団体が原告らを擁護した事実,原告半田は中村武彦という右翼の人物と姻戚関係にあり,同人の子である中村明彦は原告ワールドメイトの責任役人や関連会社の取締役を務めているという事実,原告半田が,民族主義者である笹川良一なる人物が会長を務めていたことのある紅卍会の根本宏に師事し,同会の理事を務めている事実,原告ワールドメイトで九頭龍師や救霊師といった資格を取得すると自動的に道院紅卍会の会員になる事実,約半年の間に1000万円もの金が原告ワールドメイトから道院紅卍会に支払われている事実などを前提に,民族主義者と繋がっている可能性があると推測しこれを表明したものである。また,被告は,原告半田から元国会議員の藤波孝生や山口敏夫が原告ワールドメイトの行事に参加したことがあると聞いていたので,政界とのつながりがあると認識していた。これらの前提事実はいずれも真実であり,推測は妥当であるから,本件書き込み6は,公共性のある事項について,公益目的でした真実に基づく適正な論評として違法性が阻却される。

    (7)本件書き込み7について

     本件書き込み7は,コスモメイト時代ナンバー2と言われていた村田康一(以下「村田」という。)とその周囲の者が退会し,その際,原告半田や原告ワールドメイトの幹部の者たちが村田の女性関係等を問題にして会員の前で罵詈雑言を並び立て,その結果,地区幹部を務めた
    B氏(伏せる)が退会し,村田のあとナンバー2と言われていた西谷泰人(以下「西谷」という。)も活躍の場が少なくなったこと等,原告半田をとりまく幹部が入れ替わり,幹部の者が原告半田に使い捨てのようにされている印象があると論評したものである。この論評は,公共性のある事項について,公益目的でした真実に基づく適正な論評であり,違法性が阻却される。なお,原告ワールドメイトの手のひらを返すような態度は,B氏について,平成元年にコスモメイトが発行した月刊誌「COSMOMATENEWS」では盛んに褒めていたにもかかわらず,本件訴訟においては傲慢不遜で虚栄心の強い自信過剰な人物であったなどとおとしめていることにも表れている。

    (8)実質的違法性について

     本件書き込み5ないし7は,原告ワールドメイトの元会員らが相談し合い疑問をぶつけ合うことで互いの力となることを目的として作られた会員制の閉鎖型掲示板にされたものであり,開設者の審査を受けて登録した会員には守秘義務がある。また,本件書き込み5ないし7は,いずれも抽象的であり,断定的な表現を欠く。このような掲示板の設置目的,影響力・伝播性の少なさ,表現態様にかんがみれば,本件書き込み5ないし7は,仮に原告ワールドメイトの社会的評価を低下させるとしても,実質的違法性を欠く。



    (二) 原告らの主張

    (1)否認ないし争う。

    (2)公共性等について

     原告らは公権力と無関係な私的な存在であり,そのような原告らを誹謗・中傷することには公共性や公益目的は認められない。

    (3)本件書き込み1について

     別件訴訟におけるA女らの請求額は,それぞれ585万円であったから,原告半田が支払った解決金はこれを下回る。また,別件訴訟が和解に終わったのは,裁判所の強い勧告によるものであり,原告半田が口封じや逃げるためにしたものではない。したがって,被告が本書き込み1で摘示した事実や論評の前提とした事実は真実ではなく,また,論評部分は人身攻撃であり,論評としての域を逸脱したものである。

    (4)本件書き込み2について

     原告半田は,別件訴訟においてセクハラの事実を否認しており,また同訴訟は村田らが原告ワールドメイトの組織を破壊するために提起したものであるから,「好色」との論評の前提事実はない真実ではないし,そう信じるについて相当の理由もない。また,原告半田は株式会社コスモワールドの所得隠しとは何ら関係がないから,これを前提とする「強欲」との論評も不適切である。さらに,原告半田が,神罰を与えるとか生田神社の宮司が早死にしたといった発言をしたこともないので,「傲慢」との論評の前提事実も真実ではない。

    (5)本件書き込み4について

     原告ワールドメイトの福祉活動によって多くの人々が救われ,幸せになっている。このように人々を幸せにすることで,宗教的な徳を積むことができ,それが自身の幸せとなって返ってくるのであるから,会員が納めた金員は,人々を救済した徳分となり,会員は福徳を拾って開運することで恩恵を受けている。また,一度積んだ徳は,死後も輝き,生まれ変わる際に大きく影響するので,被告の母親の病状が回復しなかったからといって,効果がなかったとはいえない。さらに,会員が原告ワールドメイトに納めるのは純粋な寄附であり,これに対価性を求めるのはふさわしくない。したがって,本件書き込み4による論評の前提事実は真実ではなく,また同論評は原告ワールドメイトに対する人身攻撃であり,適正な論評の域を逸脱する。

    (6)本件書き込み5について

     原告ワールドメイトは,被告が本件書き込み5による論評を表明した平成13年には,公認会計士による会計監査を行い,公表しているので,前提事実は真実ではない。また,本件書き込み5は,原告ワールドメイトに対する人身攻撃であるから,論評の域を逸脱したものである。

    (7)本件書き込み6について

     原告半田が紅卍会の理事になったのは笹川良一の死後であり,原告らは笹川良一個人とは何らの関係もなく,紅卍会も宗教と慈善活動を行う団体であり,「民族主義者(右翼)」とは何の関係もない。原告ワールドメイトの会員も,九頭龍師や救霊師といった資格を得るには,紅卍会固有の神法を学ぶ必要があるので,各自が紅卍会に入門することを推奨しているが,何百人もいる会員がそれぞれ入会手続をとるのは煩雑なので,原告ワールドメイトが一括して入門金を預かり,奉納しているにすぎない。また,原告半田の妹の夫は,中村武彦の三男であるが,同人は,右翼的な活動にかかわったことはなく,原告らと右翼とのかかわりはない。政界とのつながりについても,確かに藤波孝生は原告ワールドメイトの会員であったこともあるが,資金的なつながりがあったことはなく,山口敏夫が原告ワールドメイトないしコスモメイトの行事に参加したことはないし,資金面でのつながりもない。さらに,前記のように,原告ワールドメイトは所得隠しをしていない。したがって,本件書き込み6による論評の前提事実は真実でなく,また,論評は原告ワールドメイトに対する人身攻撃であるから,適正な論評の域を逸脱したものである。

    (8)本件書き込み7について

     村田は,原告ワールドメイトの組織破壊活動をし,自ら退会したものであるし,B氏は女性会員に対して性的な問題を複数起こしたため,やむなく5年間の会員資格はく奪となったものであり,西谷は退会していない。したがって,被告が論評の前提とする事実は真実ではない。また,本件書き込み7は原告半田に対する人身攻撃であるから,適正な論評の域を脱したものである。

    (9)実質的違法性について

     本件書き込み5ないし7の内容は,現実に原告らに伝わってきており,掲示板「すずむし山荘」の閉鎖性の主張は空論にすぎない。


  4. 争点4について

    (一)原告らの主張

     被告の本件各書き込みによって原告らに生じた無形的損害は,金銭に換算すると,それぞれ3500万円を下らない。


    (二)被告の主張

     争う。

第3 当裁判所の判断

一 前提となる事実

 証拠等(各認定事実の末尾に摘示する。)及び前記争いのない事実等記載の各事実を総合すると,以下の事実が認められる。

  1. 原告らの活動

    (一)原告ワールドメイトは,植松愛子を開祖として,昭和59年に「宗教団体コスモコア」の名で発足し,以後,コスモメイト,パワフルコスモメイトなどと名を変えて現在の名称を名乗り,5万人以上の信者を持つ宗教団体である。原告ワールドメイトは,世界の人々が幸せに暮らせる理想社会(みろくの世)の到来を目指して,信者の開運,運勢向上を促すという,「救霊」や「九頭龍神法」による祈とう等の活動を行ったり,伊勢神宮への団体参拝等を行っている。また,原告ワールドメイトは,盲人福祉のための「盲人ゴルフ」を啓もうするといった福祉活動も行っている。(甲17)

    (二)原告半田は,植松愛子の弟子であり,原告ワールドメイトの教祖であって,昭和60年ころから平成7年まで「深見青山」と名乗り,以後は「深見東州」と名乗っている。また,原告半田は,毎月開かれる「定例講演神業」において講話をしたり,講演会で能やオペラ,クラシックコンサートなどを披露したり,多数の書籍を著作している。同人の著書には,同人の経歴として,ホノルル大学神学博士,同志社大学経済学部卒,武蔵野音楽大学特修科声楽専攻卒業,英国王立ウルバーハンプトン大学経営学部客員教授,中国国立精華大学歴史学部顧問教授,中国国立大学浙江大学大学院日本文化研究所客員教授,中国国立中華女子学院客員教授,中国国立戯曲学院客員教授,西オーストラリア州立エディス・コーエン大学名誉文学博士,西オーストラリア州立カーテン工科大学名誉文学博士,宝生流能楽嘱託教授,茶道師範,華道師範,書道師範,比叡山にて得度などと記載されている。(甲17,乙52,乙53,乙58の1)

  2. 株式会社コスモワールドについて

    (一)昭和60年1月18日,神仏具製作及び販売等を目的とする有限会社コスモコアが設立され,同社は,同年12月2日,有限会社コスモメイトと商号変更した。そして,平成元年7月10日,有限会社コスモメイトの組織変更により,講習会,研修会等の企画,立案,運営,出版物の発行,販売等を目的とする株式会社コスモメイトが設立された。同社は,平成6年6月28日に株式会社パワメイトに,同年11月28日に株式会社コスモワールドに商号変更した。現在は株式会社日本視聴覚社との商号になっている。(乙62の1ないし7,弁論の全趣旨)

    (二)有限会社コスモコア設立時の代表取締役は,原告ワールドメイトの前代表役員栂村繁郎であり,同人は,平成7年8月1日まで,有限会社コスモメイト,株式会社コスモメイト,株式会社パワメイト,株式会社コスモワールドの代表取締役を歴任した。また,有限会社コスモコア設立時から,西谷や,原告半田の父である半田利晴が同社の取締役を務め,平成8年11月30日には,原告半田の妹の夫であり,中村武彦の三男である中村明彦がその監査役に就任している。(乙62の1ないし7,乙79の1及び2,弁論の全趣旨)

    (三)株式会社コスモワールドは,昭和63年度から平成5年度までの事業年度について,帳簿書類に取引を隠蔽,仮装して記載するなどして,所得を60億円以上も過少申告したなどとして,荻窪税務署長より,法人税,法人特別税並びに消費税等について,更正処分を受けるとともに,30億円程度の重加算税の賦課決定処分を受けるなどした。(乙15,乙30の1の1及び乙30の1の2,乙30の2ないし5)

  3. 原告らと被告の関係

    (一) 被告は,平成2年ころ,母が末期がんに冒され,医学的な治療が困難であることが分かり,●●(伏せる)という医師から,コスモメイト(当時)が実施する救霊を受けることを勧められた。被告とその母は,同年6月ころ,福岡に行き,B氏による救霊を受けた。被告は,B氏による救霊を受け,被告とその母2人分として10万円を支払い,九頭龍師による祈とうを受け30万円を支払った。また,被告は,B氏に勧められ,同時に被告自身が九頭龍師になるための研修を申し込み,頭金50万円とローンを利用して150万円を支払った。被告の母は,平成2年9月16日に死亡したが,被告は,九頭龍師の研修のため,葬式に参列できなかった。(乙31)

    (二)被告は,平成2年当時,原告ワールドメイトが宗教団体であることは知らず,またそのような説明も受けていなかった。原告ワールドメイトは,その発行する書籍の中でも,コスモメイトや原告ワールドメイトが宗教団体ではないと明記していた。(乙22ないし乙24,乙31,被告本人)

    (三)被告は,前記救霊をきっかけに,原告ワールドメイトの会員となり,平成3年から退会する平成8年までの間,原告ワールドメイト●●(伏せる)支部の責任者を務めた。

二 争点1(原告ワールドメイトの当事者能力)について

 証拠(甲17,乙29,弁論の全趣旨),前記争いのない事実等記載の事実,及び前記認定の事実によれば,原告ワールドメイトは,開祖植松愛子及び教祖たるリーダー原告半田による立教の本義に基づき,神ながらの儀式及び行事を実践し,信者たる会員を教化育成し,公共の福祉と世界の繁栄のため「神人合一の道」を広め,「神仕組」を具現化することを目的とし,その目的を達成するため必要な活動を行う宗教団体であって,宗教団体「ワールドメイト」規則において,主たる事務所,礼拝所,執行機関としての責任役員及び代表者の定め,団体の運営方法の定めをおき,信者5万人余を有し,神道を基礎とする理想社会を実現するための祈とう等の活動や信者を増やすための布教活動などを行っていることが認められるから,宗教法人法2条に定める宗教団体としての社会的実体を有しているというべきであり,その社会的実体に照らし,民訴法29条に定める法人でない社団で代表者の定めがあるものとして,訴訟主体として裁判権の行使を受けるのに必要な能力を備えていると認めるのが相当である。


三 争点2(本件各書き込みの名誉毀損性)について

 一般に,あるメディアにおける特定の記事中の記述が他人の名誉を毀損するか否かは,当該記事全体の趣旨,目的等の諸般の事情を総合的に斟酌した上で,一般の読者の普通の注意と読み方を基準としてその記事の意味内容を解釈した場合,その記事が当該他人の社会的評価を低下させるかどうかによって判断すべきである(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。そして,インターネットサイト上の掲示板は無数に存在し,そこへの書き込みは,参加者が順次会話形式で行うものであるから,当該インターネットサイトの規模や性質,問題となる書き込みがされた経緯,前後の文脈等をも考慮した上で,当該掲示板に参加している一般の読者の読み方を基準に,名誉毀損性を判断するのが相当である。
 そこで,上記のような見地に立って,本件各書き込みについて,名誉毀損性の有無を判断する。

  1. 本件書き込み1について

     甲1によれば,本件書き込み1は,公開されたインターネットサイトである2ちゃんねるの「ワールドメイト本家スレッド3」という掲示板において,被告が,「WMの会員さんと自称される方々には,ユンケル会員さんみたいなキレル会員が多いのは何故なんでしょうね。」「大体,書くことも似ておられるますね。深見さんに直接云えだと,一度は信じたんだろうとか,他にエネルギーを向けろだのとか,御前も同罪だとか,云々。でもね,深見さんに直接云おうとしても,彼は不都合な時は忙しいとか何やかやと理由をつけて出て来ないの。」等と記載したことに続けて記載したものであり,その記載の直後には,「彼は真正面から疑問とか不信を解こうとか,答えようという気は無いんですよ。」と記載していることが認められる。
     このような文脈において,一般の参加者の読み方を基準に本件書き込み1を読めば,本件書き込み1は,原告半田が,真実を明らかにすることを避けるために,請求額よりも多額の補償金を支払って,しかも被害者であるA女らの口封じのために秘匿条項を付して,別件訴訟を和解で終了させたものであるという意味に読める。これは,読む者に,原告半田がセクハラをした上,その事実を秘匿しようとしたとの印象を与えるものであるから,原告半田の名誉を毀損する。

  2. 本件書き込み2について

     甲2及び乙33によれば,本件書き込み2は,2ちゃんねるの「ワールドメイトてどんな団体?2」という掲示板において,複数の参加者が原告半田の行動について書き込みをしていたところ,希望と名乗る参加者が,原告半田が「毎回胸元をじろじろ見たり」「さんざんエッチな事を先生の口から聞いて(中略)非常に女性としても人としても不愉快でした」との記載を含む書き込みをしたのに対し,バカ反メイトと名乗る参加者が,「俺は別に深見先生が,女とバンバンやってても,大金稼いでいようと別になんとも思わないよ。そんなん一般社会じゃ珍しい事じゃないだろ。」などと反論したのを受けて,被告が「バカ反メイトさんも,実社会でのそれなりの実績に裏打ちされた言動なのでしょう。孤軍奮闘されておられるのには敬意を表します。」とした上で記載されたものであることが認められる。以上のような文脈において,一般の参加者を基準に本件書き込み2を読めば,本件書き込み2は,原告半田が女性との性交渉や金儲けをいくらしてもかまわないというバカ反メイトなる参加者の発言を受けて,そのような発言によれば,原告半田は,正に宗教団体の教祖という社会的な地位にある者として到底ふさわしくない人物ということになると示唆して,その発現の妥当性に疑問を呈したものであり,原告半田が好色,強欲,傲慢である旨指摘したものとは理解されないから,同記載によって原告半田の社会的評価が低下したものとはいえない。したがって,本件書き込み2は,原告半田の名誉を毀損しない。

  3. 本件書き込み3について

     証拠(甲3,乙31,被告本人)によれば,本件書き込み3は,被告が管理人として運営するインターネットサイト「スサナル」の掲示板において,被告が,「当方の『戦(としか書き様がない)』ですが,戦況が混沌としていますが,もしかしたら有利な情勢になりつつあるのかも知れません。」との記載に続けて記載したものであること,これは,被告が当時勤めていた●●(伏せる)に着任してから●●●●(伏せる)の長年に渡る不正,不祥事を追求していることを「戦」とし,その情勢について記載したものであることが認められる。したがって,本件書き込み3は,原告半田のことを指すものとは理解されず,同人の名誉を毀損しない。
     なお,本件書き込み3に先立つ前記記述の直前には,「深見さん御本人についてですが,本名で書き込みをする程,腹が据わった人物とは思えません。別のHNでしか書き込みはしないと思いますよ。これから,私自身は少し書き込みを増やすことにします。」との記載があるが,一般の参加者の読み方を基準にすれば,この記載は,原告半田が本名で書き込みをすることはないであろうと記載したもので,本件書き込み3とは文章上一連一体のものとは読めないし,また,本件書き込み3には,「30年」,「僭主じみた行動」,「業者癒着」といった,原告ワールドメイトあるいは原告半田とは直接結びつかない文言があるから,本件書き込み3は,原告半田のことを指すものとは理解されない。

  4. 本件書き込み4について

     甲4によれば,本件書き込み4は,こおろぎの巣において,氏名不詳の者が,「なんだか」と題し,「聞いた話しですけど,ワールドメイトは今,いかに会員一人一人の出費をへらすかを考えているようですよ。」と記載したのを受けて,被告が,「リストラ」との題名で記載したものであることが認められる。これを,一般の参加者の読み方を基準にして読めば,原告ワールドメイトは会員の会費を無駄遣いしており,会費が高いのに比べ会員への還元が少ない団体であると理解されるものであって,原告ワールドメイトの社会的評価を低下させるものといえる。したがって,本件書き込み4は,原告ワールドメイトの名誉を毀損する。

  5. 本件書き込み5について

     甲5によれば,本件書き込み5は,スズムシ山荘において,被告が,「本日午後の書き込みには,平成2年にはコスモメイトの収支がギリギリであったのではないかという記載がありましたが,これは余剰資金を迂回融資で,海外資産購入という形態に置き換えていただけであると考えています。もし,当時から収支ギリギリであるのならば,現在に到るまでに,資金的にはショートしていたと思いますよ。」との記載に続けて,「又,そうでないのならば,」として記載を続けたものであることが認められるところ,この記載は,一般の参加者の普通の注意と読み方を基準とすれば,原告ワールドメイトの収入源について不透明な部分があるかもしれないという漠然とした可能性を述べたにすぎないものであるから,これによって,参加者に,原告ワールドメイトに不明瞭な収入源があるという印象までは与えないというべきである。したがって,本件書き込み5によって,原告ワールドメイトの社会的評価は低下せず,本件書き込み5は,同団体の名誉を毀損しない。

  6. 本件書き込み6について

    (一) 甲6によれば,本件書き込み6は,スズムシ山荘において,被告が,「ところで,私の掲示板にも書きましたが,コスモメイト擁護の論陣を張った,全貌社雑誌『ゼンボウ』並びに,水島毅氏は,かなり偏向的(右翼的)で,胡散臭い人物のようですね。それに,世界日報社というのも,明らかに勝共連合,統一教会系っぽい印象を受けます。」と記載したのに続けて記載したものであることが認められるところ,一般の参加者の普通の注意と読み方を基準とすれば,この記載は,宗教団体である原告ワールドメイトと特定の政治的主義・主張ないし傾向を有する政治団体である右翼団体等との間に会員等に公表されない資金的なつながりがあるとの印象を与えるものであり,原告ワールドメイトの目的の宗教的純粋性に疑念を抱かせるものといえるから.宗教団体としての原告ワールドメイトの社会的評価を低下させるものである。したがって,本件書き込み6は,同団体の名誉を毀損する。

    (二) この点,被告は,スズムシ山荘は,管理者によるパスワード等の発行を受けなければ入室できず,メンバーには守秘義務があるので,スズムシ山荘における書き込みは,会議中の発言と同様に公然性を欠き,名誉毀損は問題にならない旨主張する。一般に,名誉毀損の不法行為が成立するためには,名誉毀損事実が一定範囲に流布されることが必要であり,その意味において公然性が要求されるところ,証拠(乙12の1ないし3,乙31,被告本人)によれば,スズムシ山荘は,原告ワールドメイトを退会した者たちが互いに支援し合い,あるいは原告ワールドメイトに疑問を持つ会員や,家族等に原告ワールドメイトの会員がいる者が相談し合う目的で設けられたものであること,同掲示板は,希望者のうち,管理者の審査を経て参加を許可された者のみID,パスワードを発行されてメンバーとなり,URL(Universal Resource Locasterの略,特定のインターネットサイトの場所を示す書式のこと。)が知らされて,初めて閲覧・参加できるものであること,メンバーは,URLや掲示板の記載内容等につき他人に口外しないことを約束させられること,被告が本件書き込み5ないし7をした当時,同掲示板のメンバーは十数名であったことが認められる。しかし,証拠(甲5ないし甲7,乙12の3,弁論の全趣旨)によれば,同掲示板は,管理者の許可さえ受ければ,前期認定の限度でしか資格は限定されていないこと,参加希望者は,随時管理者の審査を受けられること,審査を受けるには,原告ワールドメイトの退会者か現会員か非会員の別,メールアドレス,入室を希望する理由を申述すればよいこと,メンバーは仮名(ハンドルネーム)を使用しており,メンバー同士であっても個人の特定は困難であること,過去の記録(過去ログ)は10ヶ月以上も保存されており,メンバーはいつでもこれを閲覧できることが認められるから,同掲示板のメンバーは不特定多数の者であるということができ,スズムシ山荘への書き込みが公然性に欠けるものとは認められない。したがって,この点の被告の主張は採用できない。

  7. 本件書き込み7について

     甲7及び乙24によれば,本件書き込み7は,スズムシ山荘において,他の参加者の間で話題になっていた「N谷」なる人物について,被告が,「N谷さんは深見さんへのよいしょばかりしていた様な記憶が強かったですね。彼と話をした時も何か深みを感じさせるというような事はありませんでした。」と記載したのに続いて記載したものであり,「N谷」とは,原告ワールドメイトの幹部であった西谷のことであると認められるところ,この記載を一般の参加者の普通の注意と読み方を基準とすれば,原告半田が,西谷などの幹部を,次々と自分の都合良く利用してはすぐに見放しているかのような印象を与えるものであるから,本件書き込み7は,原告ワールドメイトの教祖である原告半田の名誉を毀損する。
     

四 争点3(違法性阻却事由等の有無)について

 一般に,事実を摘示して他人の名誉を毀損する場合において,その表現行為が公共の利害に関する事実に係り(以下「公共性」という。)専ら公益を図る目的に出た(以下「公益目的」という。)場合には,その摘示した事実が真実であることが証明されたときは,その表現行為は違法性がなく,また真実性の証明がなくとも,その行為者においてその事実を真実であると信じるについて相当の理由(以下「相当性」という。)があるときには,故意又は過失が阻却されると解される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁)。また,特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明によって他人の名誉を毀損した場合であっても,公共性及び公益目的が認められ,意見ないし論評の前提とした事実(以下「前提事実」という。)につき,真実性の証明があるときは違法性が阻却され,そうでなくても相当性が認められれば,その論評が人身攻撃にわたるなど適正な論評の域を逸脱しない限り,故意又は過失が阻却されると解するのが相当である。そして,ある記述が事実を摘示したものか意見ないし論評を表明したものかの区別は,その語句のみならず,前後の文脈や読者が,有していた知識ないし経験等を考慮して,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものか否かによって判断すべきである(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。この法理は,インターネット上の掲示板における書き込みによる名誉毀損にも該当するというべきである。
 そこで,上記認定のとおり原告半田の名誉を毀損する本件書き込み1及び本件書き込み7並びに原告ワールドメイトの名誉を毀損する本件書き込み4及び本件書き込み6について,違法性ないし故意過失阻却事由が認められるか否かにつき以下検討する。


  1. 本件書き込み1について

    (一) 事実の摘示か意見論評の表明かの別

     本件書き込み1は,原告半田が,別件訴訟において,セクハラの事実が明らかになることを防ぐために,請求額以上の解決金を支払った上,口封じのための秘匿条項を設けて和解したとの事実を摘示するものである。

    (二) 公共性,公益目的

     証拠(乙9,乙13,乙15ないし乙17,乙68,乙74の1ないし3,乙95),弁論の全趣旨及び前記認定の事実によれば,原告半田は,5万人以上の信者を有する宗教団体の教祖であることに照らし,その行動,言動は,多くの者に影響を与えることから,信者のみならず一般社会においても注目され,同人のセクハラ問題及び別件訴訟の内容も,社会的関心事となっていたことが認められる。よって,当該問題について言及する本件書き込み1は公共性がある。
     また,一般に,公共性のある事実について,自らの疑問を公開された掲示板上に公表することは,それ自体あるいは他者の意見を誘発することによって,読む者に当該事実に関する判断資料を与えることになるから,公共の利益にかなうといえる。証拠(乙31,被告本人)によれば,被告が本件書き込み1をした趣旨は,生涯不犯を公言していた原告半田が,セクハラで訴訟を起こされ和解金を支払ったことを知り,その矛盾を指摘し,他の人々と話し合うためであったことが認められ,前記のように公共性のある事実について自らの疑問を提起し,読む者に議論のきっかけを与えようとしたものであるから,公益目的も認められる。

    (三) 真実性

     別件訴訟が提起されたこと,別件訴訟が和解で終了したこと,A女らの請求した慰謝料は500万円ずつであったのに,原告半田は解決金名目で550万円ずつ支払ったこと,和解条項に秘匿条項が定められたことは前記認定のとおりである。そして,証拠(乙10,乙74の1ないし3及び乙95)によれば,A女らは,別件訴訟の提起及びその内容を公表し,和解成立後間もなく,和解の事実は報道されたことが認められるところ,かかる別件訴訟の経過に照らせば,少なくとも秘匿条項がA女らからの要請で定められたものではないと推測することが合理性を欠くものとはいい難い。しかし,前記認定のとおり,別件訴訟は3回にわたり口頭弁論が開かれ,原告半田はセクハラの事実を否認して訴訟活動を行っており,慰謝料の請求額より多額の解決金を支払って和解したことや秘匿条項を定めたことが真実を明らかにするのを避けるために口封じをして逃げたものであるとまでは認めることができない。したがって,本件書き込み1について真実性の証明があったものとは認められない。

    (四) 相当性

     しかし,証拠(乙13,乙74の1,乙94)によれば,A女らは,原告半田から受けたセクハラについて,具体的に供述しており,被告は,これらの報道を見て,セクハラの事実が真実ではないかと判断したことが認められる。また,訴訟上の和解において,請求された慰謝料の額よりも多額の解決金が支払われることや,双方当事者が必要としないのに裁判所が秘匿条項を定めることは業務上必ずしも多くはない。さらに,前記のとおり,A女らが別件訴訟の提起及びその内容を公表し,和解成立後間もなく,和解の事実が報道されたことからすると,秘匿条項が原告半田の要請によって盛り込まれたと被告が推測したことは,あながち不合理とはいえない。これらに照らすと,被告が,原告半田はセクハラの事実が明らかになるのを防ぐため,口封じをして,別件訴訟を和解で終わらせたと考え,そのことを本件書き込み1で記載したことについては,相同性が認められるものというべきである。したがって,本件書き込み1で記載したことについては,相同性が認められるものというべきである。したがって,本件書き込み1については,被告の故意又は過失が阻却される。


  2. 本件書き込み4について

    (一) 事実の摘示か意見論評の表明かの別

     本件書き込み4は,原告ワールドメイトは会費を無駄遣いし,ハイコスト・ロークオリティであるから,会費を下げることは難しいのでないかとするものであるが,宗教団体の活動について費用対効果の観点からの質の高低は,証拠等によって認定できる事項とはいえないから,本件書き込み4は,被告の意見を表明したものというべきである。

    (二) 公共性,公益目的

     乙18によれば,原告ワールドメイトについて,その会員から金銭の徴収に関し問題提起がされていたこと,そして,それは,5万人以上の信者を有する宗教団体の会費に関するものでありあり,社会的な関心事であることが認められるから,このような原告ワールドメイトの会費について言及した本件書き込み4には,公共性が認められる。そして,前記のとおり,公共性のある事項について,公開された場において意見を表明することは,公共の利益にかなうものであるから,本件書き込み4は,その記載された内容及び文脈に照らし,公益目的でしたものと認められる。

    (三) 前提事実の真実性

     証拠(乙31,被告本人,弁論の全趣旨)によれば,本件書き込み4の前提事実は,被告は母の病気の治癒のために原告ワールドメイトの会員となったこと,最初の祈とう料として被告とその母2人分として10万円を支払い,救霊師による祈とう料として30万円を支払い,また,被告自身が九頭龍師となるために200万円を支払ったにもかかわらず,母の病気は一切回復せずに母は死亡し,またその後も会費等を払い続け合計で900万円ほどの金を支払ったにもかかわらず,被告へは形あるものとしては一切還元されず,原告半田による能やオペラの費用や,海外への寄附に多額の金員が使われているという事実であることが認められる。そして,証拠(甲26,甲27,乙18,乙31,乙78,被告本人)によれば,原告ワールドメイトあるいは原告半田が,福祉活動に多額の寄附をしていること,原告半田が幅広く芸事をしており,チャリティコンサート等を多数催していること,被告の母の病気は治癒しなかったこと,原告ワールドメイトの祈とうを受けたり九頭龍師などの資格を取るためには数万円から数百万円の費用がかかることが認められる。したがって,本件書き込み4の前提事実については真実性の証明があったということができ,かつ,本件書き込み4は,論評としての域を逸脱するものとはいえないから,違法性が阻却される。


  3. 本件書き込み6について

    (一) 事実の摘示か意見論評の表明かの別

     原告ワールドメイトが右翼団体やそれに同調する政治関係者と資金面でつながっているかどうかは,証拠等によってその存否を確定できる事項である。しかし,本件書き込み6において,被告が,原告ワールドメイトと資金的につながっている可能性があるとする民族主義者(右翼)やそれに同調しているとする政治屋が誰を指すか,また,資金的なつながりとは何かは,前後の文脈からも具体性を欠くから,一般の参加者の知識及び経験を考慮しても,本件書き込み6は,被告が原告ワールドメイトと右翼団体等とのつながりの事実を主張しているものではなく,被告が以前から抱いていた原告ワールドメイトの資金面に関する疑問に対する解答の一つとして,思いの外右翼団体等とのつながりがあるのかもしれないという被告の意見を表明したにとどまるまのと認めるのが相当である。

    (二) 公共性,公益目的

     前記のとおり,多数の信者を有し,消費者問題も生じている宗教団体である原告ワールドメイトの資金面についての右翼団体等とのつながりの有無は,社会的な関心事といえるから公共性が認められ,かかる事項に関する意見を,ワールドメイトに疑問を持つ者たちが主たる会員となるスズムシ山荘に書き込むことには公益目的があると認められる。

    (三) 前提事実の真実性

     証拠(乙20の31,乙30の3,乙30の4,乙34,乙37,乙35の1,乙47,乙79の1及び2,乙80,乙81,乙82,乙84,乙85,乙86,乙87,乙88の1及び2,乙89,乙91,被告本人,弁論の全趣旨)によれば,本件書き込み6の前提事実は,被告が入会していた当時,原告ワールドメイトでは会計報告もされておらず,その収支は不明であったこと,他方で多額の海外資産購入や寄附や,原告ワールドメイトの関連会社である株式会社コスモワールドについて64億円もの所得隠しがあるとして課税処分がされたこと,その前提として,課税庁は,原告ワールドメイトないしその前身は,株式会社コスモワールドと実質的に同一であると判断していたこと,原告ワールドメイト内紛時に原告らを擁護した「全貌社」は共産主義に反対する団体であり,その出版する書籍内容からしても,民族主義(右翼)に分類されると考えられること,雑誌「ゼンボウ」が反共的色彩の強い,統一協会系の世界日報社から縮刷本を出しているということ,また,原告半田は右翼として有名な中村武彦と姻戚関係にあり,中村明彦は原告ワールドメイトの責任役員も勤め,関連会社株式会社ミスズの取締役にも就任していること,原告半田自身,道院紅卍字会の根本宏に師事しており,平成7年6月20日以降,同会の理事を務めているところ,民族主義者としても知られている笹川良一も同会の会長を務めていたことがあること,原告ワールドメイトと道院紅卍字会は今なお密接なつながりがあり,原告ワールドメイトで九頭龍師や救霊師になると,道名を授けられ,自動的に紅卍字会の会員にもなることになっていること,その年会費や別途支払われる寄附金も加えると,半年の間に1000万円前後もの金員が原告ワールドメイトから紅卍字会に支払われていること,加えて,被告は,原告半田から,元国会議員でいずれも後に逮捕された藤波孝生や山口敏夫が原告ワールドメイトの神事に参加したことがあると聞いていたこと,事実,藤波孝生は,かつて原告ワールドメイトの責任役員に名を連ねていたことであり,これらの前提事実は,いずれも真実と認められる。そして,本件書き込み6は,人身攻撃に及ぶとはいえず,論評としての域を逸脱しない。したがって,本件書き込み6は,違法性が阻却される。


  4. 本件書き込み7について

    (一) 事実の摘示か意見論評の表明かの別

     本件書き込み7は,その文言上も,また,一般の参加者の知識及び経験を考慮して前後の文脈等から判断したその伝達事項上も,原告ワールドメイトの幹部が原告半田によって都合良く使い捨てにされているとの事実の存在を主張するものではなく,原告半田と幹部らの関係等を見た上で抱いた被告の意見を述べるものというべきである。

    (二) 公共性,公益目的

     本件書き込み7は,原告半田と原告ワールドメイトの幹部らの上下関係,原告半田の原告ワールドメイト組織内部におけるふるまいに関するものであるところ,宗教団体内部における教祖の信者や幹部に対するふるまいは,宗教家である原告半田の原告ワールドメイトのリーダーとしての資質,宗教団体である原告ワールドメイトの運営等を判断する重要な資料となるから,社会一般の関心事であるといえ,公共性がある。そして,実際に支部の責任者を務め,幹部の者を身近に見てきた被告において,原告半田と幹部の者たちの関係について感じたことを表明することは,公益目的によるものといえる。

    (三) 前提事実の真実性

     証拠(甲32,甲33,乙31,乙42,被告本人)によれば,本件書き込み7の前提事実は,原告ワールドメイトがコスモメイトから改称するまでの間に,コスモメイト時代にナンバー2と言われた村田やその周囲の人々が退会したこと,地区幹部であり,被告が原告ワールドメイトの会員となるきっかけとなったB氏も退会したこと,村田の後,ナンバー2の座にあり,原告ワールドメイトに関する書籍などを著作してきた西谷も,以前のような活躍が見られないこと,村田やその仲間が退会した時には,原告半田やその他の幹部が,村田らの女性関係まで取り上げて,会員の前で罵詈雑言を並べたてたことなど,被告自身が見聞きした,原告半田をとりまく幹部がくるくると入れ替わったり,原告半田が自分に反抗する都合の悪い者を罵倒したりしたことであり,これらの前提事実は,いずれも真実と認められる。そして,本件書き込み7は,その内容,記載の体裁等からして,意見又は論評としての域を逸脱しているとまではいえない。したがって,本件書き込み7についても,違法性が阻却される。

五 結論

 以上の次第で,争点4について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民訴法65条,61条を適用して,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第37部

裁判長裁判官   近   藤   壽   邦
裁判官   藤   井   聖   悟
裁判官   中   川   良 奈 子


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最終更新日:2005.04.05

 

一、原告ら

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